薬剤師にとって「服薬指導」は中心業務のひとつです。しかし、その説明は本当に患者に伝わっているのでしょうか?
実は、薬剤師の説明内容を患者が正確に覚えている割合は、全体の約50%以下とされており、“伝えたつもり”と“伝わった現実”の間に深いギャップがあることが問題視されています。
本記事では、「伝える」ではなく「伝わる」ための言葉選び・順序・非言語的要素など、薬剤師に求められる実践的なコミュニケーション技術について詳しく解説します。
✅ なぜ「伝わらない」服薬指導が起こるのか?
患者にとって、薬剤師の説明は非常に重要ですが、以下のようなコミュニケーションギャップが発生しています。
主な要因
要因 | 内容 |
---|---|
難解な専門用語 | 「NSAIDs」「眠前服用」などが理解されていない |
一方的な説明 | 質問の余地がなく、聞き流されやすい |
情報量過多 | 3種類以上の薬を一度に説明して混乱を招く |
認知機能の差 | 高齢者や子どもでは記憶・理解にばらつきがある |
説明スピードが早すぎる | 緊張している患者は処理が追いつかない |
薬剤師は“わかりやすく話している”つもりでも、患者の理解度とは必ずしも一致していないのです。
📊 実際のデータが示す「伝わらない」現実
- ある調査では、服薬指導を受けた患者のうち、1週間後に用法用量を正確に覚えていたのは約43%
- 高齢者では、副作用の説明内容を思い出せた人は3割未満
つまり、「きちんと説明した」は自己満足であり、“患者が理解したかどうか”こそが評価基準なのです。
💡 患者理解を高める「言葉術」7つのポイント
それでは、実際に現場で使える「伝わる服薬指導」の言語テクニックを見ていきましょう。
① 医療用語を“生活言葉”に翻訳する
- ❌「NSAIDsを服用しています」
- ✅「痛み止めの一種で、炎症を抑えるお薬です」
難しい言葉は“かみ砕いて言い換える”のが基本です。小学5年生でも理解できる言葉が目安です。
② 数値でなく“行動”で示す
- ❌「1日2回、12時間おきに服用」
- ✅「朝起きてすぐと、夜寝る前に飲んでください」
患者の生活リズムに合わせた例示をすると、実践されやすくなります。
③ 「伝わったか確認」までが指導
- ✅「今の話を確認すると、朝と夜の2回ですね?」
- ✅「飲み忘れたときは、どうしますか?」
オープンクエスチョンで理解を確認することが重要です。ただし、試験のようにならないよう配慮が必要です。
④ 話す順序を「重要→詳細」に変える
- ✅ 最初に「この薬は血圧を下げるお薬です」と要点を伝え、その後に「副作用」「飲み方」など詳細を説明
→ 最初の5秒間に記憶の定着率が最も高いという心理学データに基づいた方法です。
⑤ 説明は“3つまで”に絞る
- ✅「この薬は①痛みを抑える、②熱を下げる、③腫れをひかせる、という3つの効果があります」
3つまでなら記憶に残りやすく、混乱を防ぐという「スリー・メッセージ理論」を活用しましょう。
⑥ 非言語コミュニケーションの活用
- アイコンタクト、うなずき、穏やかな声のトーン
- ジェスチャーを使って飲むタイミングを示す
→ 特に高齢者や外国人には視覚的なサポートが有効です。
⑦ 患者の“感情”に配慮した言い方
- ❌「副作用があります」
- ✅「まれですが、お腹がゆるくなることがあります。そのときはすぐ相談してくださいね」
“不安”ではなく“安心”につなげる表現を使うことで、信頼関係が深まります。
🏥 特に注意したい「伝わりにくいケース」
✅ 高齢者
→ 聴覚・記憶力の低下を想定してゆっくり・はっきり・繰り返し
✅ 多剤併用の慢性疾患患者
→ 複数の薬を同時に説明せず、1種類ずつ時間をかけて
✅ 緊張している初診患者
→ 話しやすい雰囲気づくりと視覚ツールの活用が効果的
📈 服薬指導の質が上がると何が変わるのか?
- 服薬アドヒアランスの向上(飲み忘れの減少)
- 副作用早期発見・再受診率の低下
- 患者満足度と薬剤師への信頼が向上
- 最終的には医療費削減にもつながる
実際に、服薬指導の改善によりアドヒアランスが20%以上向上したと報告された研究もあります。
🧭 薬剤師の今後に必要な視点:「伝える力」→「引き出す力」へ
服薬指導は一方通行では成立しません。
今後は、「話す」だけでなく**“患者の反応を引き出し、行動変容を促す”力**が求められます。
これからの服薬指導のキーワード
- 🎯 対話型指導(インタラクティブ)
- 🧠 ヘルスリテラシー対応
- 🤝 共感と信頼の構築
AIや動画説明が増える中でも、薬剤師の“人間力”が活きるのはこうした**“相互理解をつくる”部分**なのです。
✅ 結論:「説明した」ではなく「伝わった」が評価基準
服薬指導は、薬剤師にとって日常業務のひとつですが、そこには患者の未来を左右する責任があります。
「言ったからOK」ではなく、
「伝わって、行動が変わったかどうか」を意識することで、
あなたの服薬指導はより信頼されるものになります。