サントリーを立体的に理解するための必読書5選【創業家・プロ経営者・顧客視点・競争環境】

書籍

サントリーは「やってみなはれ」の精神で知られる日本を代表する飲料企業です。その強さの背景には、創業家の哲学、外部から招かれたプロ経営者の改革、顧客の声を重視する仕組み、そしてライバル・キリンとの競争という複数の要素が絡み合っています。本記事では、サントリーを多角的に理解するための書籍を5冊厳選し、それぞれの内容や評判を整理しました。経営学的な学びを得たい方から、企業文化やマーケティングに関心がある方まで、幅広く参考になるガイドです。

世襲と経営 サントリー・佐治信忠の信念

著者:泉 秀一/発売:2022年11月

世襲と経営 サントリー・佐治信忠の信念
世界で3兆円に迫る売上高を誇る巨大企業、サントリーは、同時に日本最大の非上場企業、ファミリー企業でもある。2014年、米ビーム社を買収し、文字通りグローバル企業となったサントリーにとって、経営の世襲はプラスか、マイナスか。2001年からグル...

概要(どんな本?)

サントリー三代目社長・佐治信忠氏の経営姿勢を軸に、創業家が担ってきたサントリーの独自性と強みを描いた一冊です。非上場・同族経営という形態を守りながらも、世界的企業へと飛躍していった背景を徹底取材で解き明かしています。ビール事業の黒字化や海外大手買収といった大きな決断の裏側に加え、創業家の信念と外部から招いた経営者(新浪剛史氏)の補完関係も描かれており、サントリーの“長期主義経営”を理解する上で欠かせない内容となっています。

主な口コミ・評判

  • 肯定的な評価
    「佐治氏の人柄や“やってみなはれ”精神がよく伝わる」「震災時の広告対応や、プレミアムモルツの黒字化までの執念に感動した」との声が目立ちます。創業家の価値観が会社全体にどう根づいているかを知れる点が特に好評です。
  • 中立的な評価
    「インタビュー中心で読みやすい」「サントリーの企業文化を肌で感じられる」といった声が多い一方で、全体像よりも人物ルポの側面が強いという意見もあります。
  • 批判的な評価
    「サントリー側に寄った構成で、第三者の検証や批判的な視点はやや少ない」「美化されている部分もある」との意見もあり、客観的な経営分析というよりは当事者の語りを重視した構成だと指摘されています。

深掘りポイント

  1. 非上場と創業家支配の強み
    株主圧から自由なことで、長期的な挑戦を可能にした点が具体例を交えて描かれています。ビール事業の長期赤字を耐え抜き、三代越しに黒字化を果たしたプロセスは象徴的です。
  2. 創業家とプロ経営者の補完関係
    鳥井家の長期志向・文化的価値観と、外部から招いた新浪剛史氏の経営スキルがどのように組み合わされたのか、次世代の経営体制も含めて語られています。
  3. グローバル戦略と意思決定
    ビーム社買収に代表される大型M&Aの判断や、国内外の文化をどう調和させるかが具体的に示されており、サントリーの国際化戦略を理解する上で有益です。

なぜおすすめか

本書は「理念→組織→事業」が一貫して描かれており、サントリーの経営哲学を立体的に理解できるのが大きな特徴です。佐治信忠氏をはじめとした当事者の言葉からは、長期主義の経営哲学や“やってみなはれ”文化が具体的にどう実務へ落とし込まれているかが見えてきます。サントリーという企業を「数字やブランド戦略」ではなく、「経営思想と文化の結晶」として理解するのに最適な一冊です。

ローソン再生、そしてサントリーへ プロ経営者 新浪剛史

著者:吉岡秀子/発売:2014年11月

ローソン再生、そしてサントリーへ プロ経営者 新浪剛史
2010年刊の『砂漠で梨をつくる ローソン改革 2940日』に、 東日本大震災、玉塚元一氏への権限移譲、サントリー移籍をめぐるドキュメントを加えた新装版。 10月1日付でサントリー社長に就き、 「プロ経営者」として歩き始めた新浪剛史氏の足跡...

概要(どんな本?)

本書は、ローソンを大きく変革した経営者・新浪剛史氏の歩みと、その後サントリーへ移るまでの経営哲学を描いた企業ルポです。ローソン社長就任後、低迷していた同社を「健康志向」「社会貢献」など新たな価値観を取り込みながら再生させた手腕を解説。コンビニ業界の競争が激化するなかで、新浪氏がどのように“差別化”を図り、社員や顧客の心をつかんでいったのかを詳細に描いています。また、サントリー次期経営者として求められた役割や、創業家との関係性についても語られており、「プロ経営者」としての生き方を学べる内容です。

主な口コミ・評判

  • 肯定的な評価
    「コンビニ業界の裏側が分かりやすい」「ローソン改革の実例がリアルで、経営学のケーススタディとしても使える」といった声が多いです。新浪氏の“未来志向”と“顧客視点”が伝わると評価されています。
  • 中立的な評価
    「ローソン改革については詳しいが、サントリーに関する記述は序章にとどまる」との意見もあります。ローソン経営史の延長として読むと納得感があるという見方が目立ちます。
  • 批判的な評価
    「やや人物賛美に傾きすぎている」「経営課題の失敗事例や対立構造の記述は薄い」といった指摘もあります。新浪氏の成功面が強調されすぎているとの意見も一部に見られます。

深掘りポイント

  1. ローソン改革の現場
    新規商品の導入、店舗運営改革、PB(プライベートブランド)の強化など、コンビニ経営の細部が描かれており、小売ビジネスの実践知が得られます。
  2. 「健康志向コンビニ」への挑戦
    サラダや低カロリー食品の拡充など、当時は先駆的だった取り組みを通じて「消費者の生活習慣に寄り添う経営」が実践されていた点が注目されます。
  3. プロ経営者としての姿勢
    創業家企業のサントリーに招かれるまでの背景から、オーナー経営と外部経営者の補完関係を理解でき、サントリー理解にもつながります。

なぜおすすめか

サントリーを深く理解する上で、創業家とともに企業を牽引する「プロ経営者」新浪剛史の視点を知ることは不可欠です。本書を通じて、ローソン再建の具体策や価値観の転換が見えてくると同時に、サントリーにおける新浪氏の役割を理解する手がかりにもなります。サントリー経営を「創業家の信念」だけでなく、「プロ経営者の実務的視点」からも捉えたい読者に特におすすめの一冊です。

個を動かす 新浪剛史 ローソン作り直しの10年

著者:池田信太朗/発売:2012年12月

個を動かす 新浪剛史 ローソン作り直しの10年
株主・ダイエーの業績不振と迷走に巻き込まれて経営が蝕まれ、 「セブンイレブンのマネをしろ」と言われ続けて現場も疲弊。 諦念と停滞に蝕まれた「万年2位」のコンビニ会社に、商社出身の 歳若い新社長がやって来た。新浪剛史、当時43歳。 2012年...

概要(どんな本?)

本書は、ローソンの社長として10年間にわたり再建を進めた新浪剛史氏の経営スタイルに迫るノンフィクションです。新浪氏は三菱商事からローソンに転じ、従来の「価格競争型コンビニ」から脱却させるため、健康志向・社会貢献・地域密着といった新しい価値軸を導入しました。その過程で、社員一人ひとりの意識や行動をどう変革したのかに焦点が当てられています。単なる経営戦略の解説にとどまらず、「人をどう動かすか」というリーダー論が骨格をなす一冊です。

主な口コミ・評判

  • 肯定的な評価
    「コンビニ業界を超えて、リーダーシップ論として役立つ」「新浪氏の考え方が生々しく伝わる」との声が多く、特に“社員の意識改革”の部分が支持されています。
  • 中立的な評価
    「ローソン経営の事例本としては優れているが、サントリーとの関連は直接的には触れられていない」という意見もあります。とはいえ、後にサントリーへ移る新浪氏の思想の土台を知る意味で価値があるとされています。
  • 批判的な評価
    「やや美談的で、現場の失敗や対立の描写が少ない」といった指摘もあります。経営ルポとしてのリアリティよりも、人物の理念紹介に比重が置かれていると感じる読者もいるようです。

深掘りポイント

  1. 「個を動かす」リーダー論
    会社全体を変えるためには、まず個人を変える必要がある——新浪氏が掲げた理念の具体例が豊富に描かれています。
  2. ローソン改革の核心
    PB(プライベートブランド)の拡充、店舗オペレーション改善、地域とつながる店づくりなど、ローソン再建の現場が詳細に紹介されています。
  3. サントリー理解につながる部分
    後にサントリーCEOとなる新浪氏の「人を動かす力」と「長期的視点で改革する姿勢」を理解することは、創業家と並び企業を牽引するプロ経営者の役割を知る上で欠かせません。

なぜおすすめか

サントリーを理解するには、創業家経営とともに「外部から来たプロ経営者」がどう組織に影響を与えるかを押さえる必要があります。本書は、まさにその原点を知る資料です。ローソンで培われた「個を動かす」力が、後にサントリーのグローバル展開や組織改革でどのように発揮されたかを想像しながら読むことで、サントリーという会社の多面的な理解が深まります。

サントリーがお客様の声を生かせる理由

著者:近藤 康子・松尾 正二郎/発売:2008年12月

サントリーがお客様の声を生かせる理由
お客様の声をクレームとして対応するのではなく、どう経営に活かし企業力を高めるかを「サントリーお客様センター」現場担当者自らが解説。

概要(どんな本?)

本書は、サントリーが長年培ってきた「顧客の声を経営に活かす仕組み」を具体的に紹介する企業研究書です。サントリーは「やってみなはれ」の精神とともに、消費者から寄せられる意見や苦情を商品開発やサービス改善に反映する文化を早くから築いてきました。本書では、顧客相談室の運営方法、社内フィードバックの体制、実際に顧客の声から生まれた商品事例などを豊富に取り上げています。マーケティングや顧客関係管理(CRM)の実践的なケーススタディとしても有用な内容です。

主な口コミ・評判

  • 肯定的な評価
    「サントリーがなぜ消費者に愛され続けるのかが分かる」「現場で顧客対応にあたる人にとって参考になる」といった評価があります。特に、声を吸い上げて実際の製品改良につなげる具体例が好意的に受け止められています。
  • 中立的な評価
    「顧客対応の基本を確認できる内容」「大企業ならではの体制を描いており、中小企業にはそのまま適用が難しい」という意見も見られます。読みやすい反面、深い分析や批判的視点は少なめとする読者もいます。
  • 批判的な評価
    「成功事例中心で、失敗や限界の描写が乏しい」「やや企業広報的に感じる部分がある」との指摘もあります。そのため、経営学的な厳密な分析を求める読者には物足りない場合があります。

深掘りポイント

  1. 顧客の声を組織全体にどう循環させるか
    部署を越えて意見を共有し、製品開発や品質改善につなげるフローが明確に描かれています。
  2. “声を力に変える”文化
    創業以来の「やってみなはれ」精神と、現場の声を重視する社風がどのように根付いているかを理解できます。
  3. マーケティング・CSRの視点
    顧客からの意見を単なる苦情処理ではなく、企業の社会的責任(CSR)やブランド価値の向上に結びつける点が特徴的です。

なぜおすすめか

サントリーを深く理解するためには、創業家の信念や経営戦略だけでなく、実際に消費者とどう向き合ってきたかを見ることが不可欠です。本書は、サントリーの強さを支える「顧客本位の仕組み」を体系的に紹介しており、マーケティングや経営に関心を持つ人にとって有益な資料となります。

サントリー対キリン

著者:永井 隆/発売:2017年1月

サントリー対キリン (日経ビジネス人文庫)
世界No.1のバーボン「ジムビーム」を擁する米ビーム社買収、創業家からのトップ交代など、 積極的な変革を進めるサントリー、 米名門ブルワリー「ブルックリン・ブルワリー」や、「よなよなエール」手掛ける「ヤッホーブルーイング」との提携をはじめ、...

概要(どんな本?)

本書は、日本の飲料業界を代表する二大巨頭「サントリー」と「キリン」の競争史を描いた企業研究です。ビールや清涼飲料といった市場で激しくしのぎを削ってきた両社が、どのように商品戦略・ブランド戦略を展開し、時代の消費者ニーズに応えてきたのかを詳しく解説しています。サントリーの「やってみなはれ」文化やプレミアム路線と、キリンの安定志向かつ老舗としての戦略との対比を通じて、日本の飲料産業の構造変化も浮き彫りにしています。

主な口コミ・評判

  • 肯定的な評価
    「サントリーとキリンのライバル関係が分かりやすく描かれている」「ビール業界の戦略や歴史が整理されていて参考になる」との声が多いです。特に、両社の経営哲学の違いを比較できる点が高く評価されています。
  • 中立的な評価
    「事実や歴史の紹介が中心で、専門的な分析は抑えめ」「読みやすいが、軽めのビジネス書としての位置づけ」という意見もあります。業界に詳しくない読者には入門書として適しているとの評価が見られます。
  • 批判的な評価
    「やや通史的で新しい発見が少ない」「特定の事例紹介にとどまっており、経営学的な深掘りが弱い」との指摘もあります。専門的なケーススタディを期待する読者には物足りなさがあるようです。

深掘りポイント

  1. 競争戦略の比較
    サントリーの攻めの姿勢(プレミアムモルツ、海外展開など)と、キリンの守りの姿勢(ブランド安定性や伝統重視)を対比的に理解できます。
  2. 業界構造の変化
    消費者嗜好の変化や人口減少といったマクロ要因が、両社の戦略にどう影響したかが整理されています。
  3. 企業文化の違い
    「やってみなはれ」のサントリーと、「老舗の重み」を重視するキリンという文化的対比が、商品展開や組織運営にどう表れるのかを知ることができます。

なぜおすすめか

サントリーを深く理解するには、ライバルであるキリンとの比較視点が欠かせません。本書は両社の戦略や文化を並べて描くことで、サントリーの独自性がより鮮明に浮かび上がります。サントリー単独の歴史や理念を学ぶだけでなく、業界全体における位置づけを理解する上でも有効な一冊です。

まとめ:サントリーを理解するための書籍一覧

以下の5冊を比較表に整理しました。サントリーという会社の多面的な姿を知る上で、どの本がどの視点を補完しているかが分かります。

番号書名著者発売年月主な焦点おすすめポイント
1世襲と経営 サントリー・佐治信忠の信念泉 秀一2022/11創業家の経営哲学と長期主義、ビーム買収など意思決定の裏側サントリーの“やってみなはれ”文化と創業家の思想を知る必読書
2ローソン再生、そしてサントリーへ プロ経営者 新浪剛史吉岡秀子2014/11ローソン改革とプロ経営者としての歩みサントリーに招かれる前の新浪氏の思想・実務を理解できる
3個を動かす 新浪剛史 ローソン作り直しの10年池田信太朗2012/12「個を動かす」リーダー論、ローソン改革の現場サントリーでの改革スタイルの原点を知ることができる
4サントリーがお客様の声を生かせる理由近藤 康子・松尾 正二郎2008/12顧客の声を活かす仕組みと文化サントリーの顧客本位の経営姿勢を実例で学べる
5サントリー対キリン永井 隆2017/1サントリーとキリンの競争史、業界構造ライバル比較からサントリーの独自性が際立つ

総合的な読み方の提案

  • 経営哲学を知るなら → 1(佐治信忠)
  • プロ経営者視点を知るなら → 2・3(新浪剛史)
  • 顧客重視の文化を知るなら → 4
  • 業界での立ち位置を知るなら → 5

これらを組み合わせて読むことで、サントリーを 「創業家の理念」「プロ経営者の手腕」「顧客視点の仕組み」「競争環境での独自性」 という4つの角度から立体的に理解することができます。

サントリー理解のための読書ガイド

サントリーは「やってみなはれ」の精神に象徴される創業家の信念と、外部から招いたプロ経営者の実務的手腕を融合させて成長してきた企業です。さらに、消費者の声を積極的に取り入れる仕組みや、ライバル・キリンとの激しい競争を通じて独自の文化を築いてきました。ここでは、サントリーを多角的に理解するための5冊を整理し、読書ガイドとしてご紹介します。


1. 創業家の経営哲学を知る

『世襲と経営 サントリー・佐治信忠の信念』(泉 秀一/2022年11月)
サントリー三代目社長・佐治信忠氏の経営思想に迫る一冊。非上場という独自の形態を活かし、長期的な挑戦を可能にしてきた仕組みを理解できます。M&Aやビール事業黒字化といった大きな決断の裏側を知ることで、サントリーの長期主義経営が具体的に見えてきます。


2. プロ経営者の役割を学ぶ

『ローソン再生、そしてサントリーへ プロ経営者 新浪剛史』(吉岡秀子/2014年11月)
ローソンを再生させた新浪剛史氏の軌跡を描く本。コンビニ業界での改革の具体例を知ると同時に、サントリーへ移る前の新浪氏の経営哲学を学ぶことができます。

『個を動かす 新浪剛史 ローソン作り直しの10年』(池田信太朗/2012年12月)
こちらはリーダー論に重点が置かれ、社員一人ひとりの意識をどう変革していったのかを解説。サントリーで新浪氏がどのように組織を動かしたかを理解するための原点ともいえる内容です。


3. 顧客本位の仕組みを理解する

『サントリーがお客様の声を生かせる理由』(近藤 康子・松尾 正二郎/2008年12月)
サントリーが消費者からの声を商品開発や品質改善にどう活かしているかを描いた本。顧客相談室の仕組みや実際の改善事例から、サントリーが“愛され続ける企業”である理由を学べます。


4. ライバル比較で独自性を浮き彫りにする

『サントリー対キリン』(永井 隆/2017年1月)
飲料業界を代表する二大巨頭の競争史。サントリーの攻めの姿勢と、キリンの安定志向との対比を通じて、業界内でのサントリーの独自性が鮮やかに際立ちます。


読書の流れ(おすすめ順)

  1. 創業家の思想を理解(『世襲と経営』)
  2. プロ経営者の実務を学ぶ(『ローソン再生』→『個を動かす』)
  3. 顧客視点の文化を確認(『お客様の声を生かせる理由』)
  4. 業界全体での立ち位置を知る(『サントリー対キリン』)

この流れで読むと、サントリーという企業を「理念」「経営者」「顧客」「競争環境」という4つの切り口から立体的に理解できます。


まとめ

サントリーを知るには、創業家の哲学だけでは不十分です。プロ経営者による改革、消費者との関係構築、そして競合との対比までを合わせて読むことで、サントリーの全体像が浮かび上がります。今回紹介した5冊は、それぞれが異なる切り口を提供しており、総合的に読むことで「サントリーとは何か」に迫ることができます。