はじめに:この本が目指すもの
「部下をもつ」ということは、多くの働く人にとってキャリア上の転換点です。成果を出すことだけが仕事だと思っていた自分が、同時に人を育て、チームを導く役割を負う。責任が増えると同時に、不安や戸惑いも大きくなります。本書は、そうした新任マネジャー、あるいは部下を持つことになって間もない人に向けて、「まず何を押さえればいいか」「どのように関われば部下が動き始めるか」「マネジメントを技術として扱うにはどうしたらいいか」を、理論と実践の両面からわかりやすく提示することを目的としています。
著者自身も、“無免許運転”的な形でマネジメントを始め、失敗や摩擦、チームの離脱などを経験した上で、自分なりに試行錯誤を重ねてきた人で、その経験が本書のリアルさを支えている点が特徴です。知識だけを詰め込むのではなく、「実際に試し、反省し、改善する」プロセスを踏むことを重視しています。
本書の構成と主要テーマ
本書は、「リードマネジメント」という概念を中心に、部下を持つという立場でまず身につけるべき5つの技術を章ごとに整理しています。各章は初心者でも読み進めやすいように、理論説明、実際に使えるノウハウ、著者の実務における経験例などが織り交ぜられています。
主な構成
- 序章:なぜ「リードマネジメント」が必要なのか、マネジメントとは何かを問い直す
- 第1章:リーダーシップの技術
- 第2章:個人の成長支援の技術
- 第3章:水質管理の技術(組織・チームの環境管理)
- 第4章:委任する技術
- 第5章:仕組み化する技術
この5つの技術はそれぞれ独立しつつも、相互に補い合うように設計されています。たとえば、「信頼関係(第1章)」がなければ「委任」も「仕組み化」も十分機能しにくい、という相関関係が、本書ではたびたび指摘されています。
キーメッセージと理論的背景
- マネジメントは技術である
才能や性格に依存するのではなく、学び・練習・改善を通じて身につけられる技術である、という強い主張があります。 - 選択理論心理学に基づくアプローチ
人には生まれながらに5つの基本的欲求があり(生きること、所属・愛・力・自由・楽しみ)、部下が動くときはこれらの欲求が関係している、という前提からスタートします。また、「上質世界」と呼ばれる「その人が心の中で大切にしている価値観・願望」を知り、それをできるかぎり叶える方向で仕事をつなげていくことが、部下の意欲や主体性を引き出す鍵とされています。 - “環境づくり”の重視
チームや組織の雰囲気、習慣、コミュニケーションスタイルなど目に見えにくいが影響力の大きい“環境”をよくすること(水質管理)を怠ると、どんなに個々のマネジメント技術を用いても成長や成果が続きにくいという話が多く展開されています。 - 委任・仕組み化
マネジャー自身がすべてを抱え込まず、部下に任せる範囲を決め、判断基準や責任の所在を明らかにし、ミスも含めてフォローする。そして、属人的な関わり方から脱し、組織として持続可能な仕組みを設けることが大切だ、としています。
読者の反応・評判
本書が世に出てから、多くの読者からレビューや感想が寄せられており、肯定的意見が多い一方、改善を望む声や「期待通りではなかった部分」についての口コミもあります。以下に整理します。
肯定的な意見
- 新任マネジャーにとってのバイブル的存在
「何から始めたらいいかわからなかった」「マネジメントって何をすればいいか分からなかった」という人たちにとって、本書は道筋を示してくれるという評価が高いです。リーダーシップ・委任・仕組み化など、まず抑えるべき重要ポイントが網羅されており、「最初に読むべき本」として多くの人が推しています。 - 具体性と即時応用可能性
実際に1on1の場面で使える言葉や、委任の設計、チーム環境を改善するための小さな習慣など、明日から現場で試してみよう、という気持ちにさせるノウハウが多いという意見。型だけで終わらず、行動につなげやすいという点が好評です。 - 誠実な体験と失敗の共有
著者が自身の失敗経験を隠さず共有していること、その中で気づいたこと・改善してきたことが語られていることが、読者に「自分もできるかもしれない」「失敗してもそこから学べる」という安心感を与えているという感想があります。 - マネジメントが学べる“技術”的な側面の提示
心理学などの専門用語が入るが、難解すぎず、日常のマネジメントに即結びつく形で“技術”として整理されている点が評価されています。特に育成支援・環境づくり・委任など、「マネージャーとしてやるべきこと」が具体的に示されているという意見が多いです. - 読みやすく、再読したくなる構成
章立てがわかりやすく、見出し・例・問いかけなどが適度にあり、重すぎない。1回読んだ後でも振り返したい箇所がたくさんあるため、時間をおいて読み直す・部分部分を参照する活用本になる、という声もあります。
批判的・改善を望む意見
- 業種・職種・規模による実践の難易度
営業や販売など比較的指標が明確な・裁量が取れやすい業種でない場合、著者の提示するノウハウをそのまま用いるのが難しいという声あり。専門職・研究職・公共部門など、成果が数値で見えにくい現場では“例とのギャップ”を感じる。 - 制度・文化の壁
自由度が高く主体性が重視される組織では効果を発揮しやすいが、トップダウン文化や厳しい規則・権限の制約が強い組織では、提唱されているアプローチを実行するための“余地”が小さい。そういった組織では部分展開に留まるか、実践を試みても抵抗を感じることが多いという意見。 - 中級マネジャー以上には新鮮味が薄い
マネジメント経験がある人、既に委任を試している人、仕組み化や育成支援に関していくつか実践してきた人にとっては、「知っていた」「やっている」ということが中心になりがちで、本書で新たに得られるものが少ないと感じることがある。 - 習慣化・継続性の課題
学びは多いが、「継続して使い続ける」「現場で変化を維持する」ためには強い意志と工夫が必要。忙しさや日常業務に追われると、つい旧来のコミュニケーションや自分のやり方に引き戻されてしまうという声。読んだだけで満足してしまって実際の行動変化に結びつかないことを懸念するレビューも見られます。 - 抽象的・理想寄りと感じる部分
とくに後半の章(仕組み化・環境管理など)は、「理論としては納得できるが、自分の部署でどこからどう手をつけるか」が見えにくく感じるという意見。著者の会社で成功している例は示されているが、その前提(権限・文化・リソースなど)が異なる職場では難しいという声。
中立的・両方の側面を感じている意見
- 本書は「入門書」として非常に優れているが、それだけでは充分でない、という理解を持つ人が少なくない。つまり、始めの一歩としてはこちらが役立つが、次のステップに進むには他書や現場での応用・学び直しや補強が必要、という見方。
- 内容の一部は既存のマネジメント理論・自己啓発書でも触れられているものが多いと感じる人もおり、「この手の本を何冊か読んだことがある=本書にも書いてあった」という点は中級者・上級者にとって当たり前に思える。
- 勢いよく読み進められるが、「読む→試す→振り返す→修正する」のサイクルを自分で設けないと、成果が出るまでに時間がかかる、あるいは途中で挫折する、という現実的な注意点を挙げる人が多数。
本書の良いところと弱いところ
これまでの評判も踏まえて、本書の優れている点と、注意が必要な点を整理してみます。
良いところ(長所)
- 初心者に寄り添っている
本書は新任マネジャーの「知りたい/困っている」ことに非常に密接に対応しています。「何が問題か自分では気づいていないこと」が明らかになる、「まずこれをやってみよう」が一章ごとに示されている構成は、初心者が迷子にならない設計です。 - 理論と実践の両輪
選択理論心理学など人間の動機や欲求に関する理論を、現場でどう使うかを具体例や実践アクションに結びつけているため、机上の理論で終わらず、行動に移すヒントが多いです。 - 実践可能な技術が具体的
委任・仕組み化・環境整備など「マネジャーが手を入れやすい領域」の技術が多く、実際に現場で使ってみたくなる内容が含まれています。 - 読みやすさ・構成の工夫
章立てが明確、用語や概念の説明が丁寧、著者の経験がストーリーとして挟まれていることで共感しやすい。冗長になりすぎず、必要な要素が取捨選択されている感があります。 - 実績と信頼性
受賞歴や多数の読者・研修参加者からのフィードバック実績など、「内容が支持されている」ことが裏付けられています。そうした“評価されてきた背景”が、本書に価値を感じさせる要因になっています。
弱いところ(注意点)
- 現場の違いがもたらすギャップ
会社の規模・業務内容・裁量の大きさ・文化などが異なると、提示されている方法がそのまま使えない、もしくは導入に苦労するという点がしばしば指摘されています。 - 応用・発展がやや浅い
入門書として十分だが、複数階層を持つ部署・複数部署をまたぐ調整・高度な制度設計等、より複雑なマネジメント課題には踏み込んでいないとの見方があります。 - 継続と実践の仕組みが自前で必要になる
本書は技術を教えてくれるものの、それを継続して実践し、自分や組織に定着させるためのチェックリストやフォローアップの枠組みは限定的であるため、読者自身が工夫する必要があります。 - 抽象度と具体度のバランス
章によっては抽象的な説明が先行し、現場で「最初の一歩」が見えにくくなる箇所がある、という声があります。特に仕組み化や環境整備の話は、「こうしたら良くなる」という理想形は示されるが、「自分の部署だとこういう制限があって…」という現実対応のヒントがもっと欲しかったという意見。 - 既に多くのマネジメント本を読んでいる人には既視感が強い
アイデアそのものは新しく感じるものもあるが、既にマネジメント理論を学んでいたり、育成支援・委任などを実践してきた人にとっては、目新しい発見が少ないと感じる可能性がある。
この本がおすすめな人/あまり合わない人
これまで述べた内容をふまえて、どのような人にこの本がとくに向くか、逆に期待外れになる可能性が高いかを具体的に考えてみます。
おすすめな人
- 初めて部下を持つ人:マネージャーとしての第一歩を踏み出したばかりの人には、「何をすべきか」の道筋が明確で、心強い指南書になります。
- これまで“我流”でマネジメントしてきたが壁を感じている人:自分のやり方に限界を感じていたり、部下との関係に思うような成果が出ていない人でも、新たな視点や技術を得られる一冊です。
- 部下との信頼関係・モチベーション・コミュニケーションに課題を感じている人:指示が通らない、部下のやる気が見えない、といった悩みを抱えている人に対して、関わり方を変えるヒントが多数あります。
- 比較的小規模なチームを率いており、自分で試しながら改善できる立場にある人:裁量があり、部下との距離が近く、環境改善や委任を試しやすい部署やチームなら、本書の技術が効果を発揮しやすいでしょう。
- 勉強好きで“学び→試す→振り返る”サイクルを回せる人:本書をただ読むだけで終えず、実際に行動を変えようという意欲と時間を持っている人には非常に役立ちます。
あまり合わない/注意が必要な人
- 中上級マネジャーで、すでに多くのマネジメント経験を積んでいる人:似たような知見や技術を既に使ってきている場合、本書で新しい発見を得る割合が低いかもしれません。
- 組織文化が非常にトップダウン/裁量が限られている所で働いている人:制度や権限の制限が強く、自由に委任したり、チーム環境を変えたりする余地が少ない場合、提案されている方法を取り入れることが難しいでしょう。
- 専門職・クリエイティブ・研究開発など、成果指標が数字化しにくい分野にいる人:営業など数値で成果を測りやすい現場と比べると、成果の見える化や仕組み化などのアプローチを応用する際に工夫が必要。
- 非常に時間が取れない・業務負荷が高い環境にいる人:学んでも試す余裕や振り返る時間がないと、せっかくのヒントが生かしきれない可能性が高いです。
- 学びを行動に落とす意図・計画がない人:読むだけで満足してしまいがちな人、変化への恐れが強くて試すことをためらう人には、行動変化まで持っていくことが難しいかもしれません。
総評と使い方のヒント
総評
この本は「はじめて部下を持つマネジャー」にとって、非常に価値のある一冊です。マネジメントという漠然とした責任の重さを感じている人に、“何をどうすればいいか”の地図を与えてくれます。また、人を動かす「仕組み」や「環境」を整えることの大事さを説いており、自分のやり方を見直したい人、今のチームをより良くしたい人には大いに示唆があります。
一方で、万能の本というわけではなく、本書だけであらゆるマネジメントの問題が解決するわけではありません。組織・業種・文化が異なれば調整が必要ですし、理論を実践に移し、それを定着させる努力を継続することが成功の鍵です。
本を最大限に活かすための使い方
以下に、本書を読んで得たものを現場で実際に活かすための具体的なステップを提案します。
- 自己診断フェーズを設ける
本書の5つの技術それぞれについて、「自分が今できていること」「できていないこと」を書き出す。信頼関係、委任、仕組み化など、強みと課題を明確にする。 - 優先領域を選ぶ
すべてを一度に変えるのは無茶。まずは自分が一番改善したい/実践しやすい技術を1~2つ選ぶ。 - 小さな実践目標を設定する
例えば、「この週の1on1で部下の上質世界について尋ねる」「いつも自分が抱え込んでいるタスクを1つ委任する」「チームミーティングで環境改善のアイデアを聞く」など、短期・具体的なアクションを設定する。 - 振り返る・記録する
実践したことを日記やメモで記録し、何がうまくいったか、どんな反応があったかを書き留め、改善点を洗い出す。 - 仲間・上司からの外部視点を得る
自分一人でやるより、信頼できる同僚・先輩・上司・あるいは部下自身から「この関わりどうだったか」を聞いてみる。フィードバックを受けることで、盲点に気づく。 - 仕組みに落とし込む
効果があった方法を、個人の“工夫”で終わらせず、チーム・部署・組織の習慣・ルール・フォーマットに組み込む。たとえば委任のルール、進捗報告の定期フォーマット、1on1の質問テンプレート、チームの価値観共有の場など。 - 定期的な再読と振り返り
数か月おきに本書を読み返し、自分の実践にどれだけ取り入れられてきたかをチェックする。状況が変われば対応も変える。マネジメントは静止したものではなく流動するもの。