『ペンギン・レッスン』海外評価・完全解説｜かわいいだけじゃない“静かな感動”の実話ドラマ【ネタバレあり】

物語の中心となるのは、ブエノスアイレス近郊にあるエリート男子校。
制服に身を包んだ少年たちは、裕福な家庭出身で頭は良いものの、教師をからかい、授業に集中しようとしません。 トムはラグビーのコーチも任されますが、彼の言うことを真面目に聞く生徒はごくわずか。 「このクラスをどう扱えばいいのか」と悩み、仕事へのモチベーションは下がる一方です。
学校の外では、軍事政権による抑圧がじわじわと迫り、町にはデモや爆破事件など不穏なニュースが流れています。 それでも学校内はどこか“温室”のようで、教師も生徒も、現実から目をそらしているように見えます。

トムは同僚とともにウルグアイへ小旅行に出かけ、そこで人生を変える瞬間を迎えます。
海岸には、油まみれになって命を落としたペンギンたちが横たわっており、その中でかろうじて生きている1羽を見つけます。 彼はホテルのバスタブで丹念に洗い、命を救おうとしますが、「海に返せば自然に帰るだろう」という期待は裏切られます。
何度海に放しても、そのペンギンはよちよちとトムのあとを追いかけてきてしまうのです。 ついには周りの人から「あなたが責任を持つべきだ」と言われ、トムは渋々、ペンギンを連れてアルゼンチンへ戻ることになります。

学校へ戻ったトムは、ペンギンを寮の部屋でこっそり飼うことにします。 やがてペンギンは「フアン・サルバドール」と名付けられ、トムの生活の一部になっていきます。
ひょんなことから生徒に見つかってしまい、トムは覚悟を決めてフアンを教室に連れて行きます。 すると、いつも騒いでいた少年たちが、ペンギンを一目見た瞬間に静まりかえり、興味津々で前のめりに授業を聞き始めるのです。
トムは、フアンを「きちんと授業に参加した生徒だけが会える特別ゲスト」として扱い、 少年たちの集中力とやる気を引き出していきます。
無口でよちよち歩きのペンギンが、いつのまにかクラス全員の“共通の友だち”になり、 教室には今までなかった一体感と優しさが生まれていきます。

フアンとの生活を通して、トムは自分自身の過去とも向き合うことになります。 実は彼は、かつて娘を事故で失い、その喪失感から妻との関係も壊れてしまった人物。 アルゼンチンに来たのも、「自分の人生から逃げるため」の選択でした。
一方で、トムが信頼を寄せる家政婦マリアの孫娘ソフィアは、独裁に抗う若い活動家として危険な道を進んでおり、 ついには当局に連れ去られてしまいます。トムは見て見ぬふりをしてしまった自分を責め、 フアンと生徒たちとの関わりの中で、責任や勇気について学び直していきます。
物語の終盤では、フアン・サルバドールの死という大きな別れが訪れますが、 その別れは、トムや生徒たち、マリアの家族が前に進むための静かな「卒業式」として描かれます。