ライムスター宇多丸が評論した映画を総まとめ｜完全ガイド「一体、誰が映画をウォッチするのか？」

宇多丸の映画評論が一気に広く知られるきっかけになったのが、 土曜夜のラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」内コーナー 「ザ・シネマハスラー」です。名作も迷作もごちゃ混ぜにした“課題映画”をサイコロで決め、 その結果に文句を言いつつも、必ず自腹で鑑賞して徹底的に語る──というスタイルが話題を呼びました。

「風の吹くまま、気の向くまま、何を観るかは賽の目次第」 という名フレーズどおり、作品は選ばず、結果で語るのがシネマハスラーの肝でした。

• ヒット作だけでなく、地味な邦画や問題作も遠慮なく取り上げる
• 作品の出来が悪ければ容赦なく斬る一方、良い部分はきちんと褒める
• ラジオならではのトーク力で、難しいテーマも笑い混じりに噛み砕く

このコーナーはのちに書籍化され、「現在もっとも信頼に足る映画評論集」とも評されます。 一方で、ただの毒舌ではなく、映画の背景や作り手の事情、ジャンルの文脈まで踏まえて分析する “総合的な読み解き”こそが、宇多丸映画評の大きな魅力と言えます。

2013年、同じくウィークエンド・シャッフル内の映画コーナーは 「週刊映画時評 ムービーウォッチメン」としてリニューアルします。 タイトルには、新作映画を“ウォッチ（監視）する者たち”というニュアンスが込められ、 作品リストの年間ベスト・ワースト発表など、コーナーとしての“映画アーカイブ”色も強まりました。

基本ルールはシネマハスラー時代から継承されており、 スタッフが候補を用意し、それをガチャやカプセル自販機でランダムに決定、 宇多丸が自腹で鑑賞して翌週に評論するという流れは変わりません。 ただしリスナーからの感想メール＝「監視報告」がより重要な位置を占め、 「一般の観客はこう観た」という声も紹介しながら議論を深める形に進化しました。

宇多丸の映画評論が、多くのリスナーや映画ファンから支持される理由は、 「自分の好み」と「作品が狙っているもの」をきちんと分けて語ろうとする姿勢にあります。 たとえば、ターゲットが子ども向けの作品であれば、 「大人の自分にはハマらないが、子どもにはこう刺さるはず」といった形で、 その作品が目指しているゴールに対してフェアに評価しようとします。

• 作品のジャンル、予算、ターゲットを踏まえたうえで評価軸を設定する
• 演出・脚本・音楽・編集など、映画を構成する要素を分解して説明する
• ジェンダー表象や社会背景など、現代的な視点からの読み解きも行う

その一方で、あえて個人の感情も隠さずに言語化し、 「自分はこう感じた」「ここはどうしても許せない」と率直に語ることで、 “好き嫌いも含めて映画を語っていい”という空気を作っているのも特徴です。

かつては深夜ラジオでリアルタイムに聴くしかなかった宇多丸の映画評ですが、 現在はポッドキャストや公式YouTubeでアーカイブが公開され、 過去回をあとから追いかけることも容易になりました。 TBSラジオ公式サイトには、その年に扱った作品リストも整備されており、 「どの映画がいつ取り上げられたか」を確認できるカタログ的な役割も担っています。

こうしたアーカイブ性のおかげで、 「映画を観る前に宇多丸評を聴く」 「観たあとに答え合わせとして聴く」 など、リスナー側の楽しみ方も広がりました。いまや宇多丸の映画評論は、 単なるラジオコーナーを超えて、映画ファンの“ガイドブック”のような存在になっていると言えるでしょう。